「老後も賃貸住宅に住み続けたいけれど、貯金はいくら必要なのだろう」と不安に感じる方もいるでしょう。

老後の住まいを賃貸にする場合、持ち家と違って毎月の家賃を継続的に支払う必要があります。そのため、老後の貯金を考える際は、家賃を含めた毎月の生活費や、将来の住み替え費用なども考慮することが大切です。

この記事では、65歳以上の夫婦二人世帯を想定し、平均的な生活費と家賃をもとに、老後を賃貸で暮らす場合に必要となる貯金額の目安をシミュレーションします。厚生年金・国民年金の受給額別に、毎月いくら不足するのかも確認していきます。

賃貸住みの65歳以上夫婦二人世帯の生活費はいくら?

賃貸住みの65歳以上夫婦二人世帯の生活費はいくら?

65歳以上の夫婦二人世帯が賃貸に住む場合の貯金額を求めるにあたり、まずは毎月の生活費がどのくらいかかるのかを把握する必要があります。

平均的な生活費を確認したうえで、家賃負担を考慮した場合の生活費の目安を解説します。

65歳以上の夫婦二人世帯の生活費は平均月約30万円

総務省が公表した「2025年(令和7年)家計調査報告」によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の消費支出は月26万3979円です。

さらに、社会保険料や税金などの非消費支出が3万2850円かかるため、合計支出は29万6829円となります。

  • 消費支出:26万3979円
  • 非消費支出:3万2850円
  • 支出合計:29万6829円

2025年の平均的な65歳以上夫婦二人世帯では、税金や社会保険料を含めて月約30万円の支出があることになります。

家賃6万円なら毎月の支出は約34万円になる可能性がある

月約30万円という支出には住居費も含まれていますが、持ち家率が高いこともあり月1万7739円にとどまっている状況です。

しかし賃貸の場合はさらに高額な家賃がかかると考えられるため、実際の金額を反映した生活費を把握する必要があります。

総務省統計局の「令和5年住宅・土地統計調査」によると、借家の平均家賃は5万9656円です。なお、この5万9656円は全国の借家の平均水準であり、65歳以上の夫婦世帯に限定した金額ではありません。

この記事では老後も毎月6万円の家賃がかかると想定して、世帯ケース別の生活費をシミュレーションしていきます。

65歳以上の夫婦のみの無職世帯の平均支出は、消費支出・非消費支出の合計で29万6,829円です。ここからすでに加算されている平均住居費1万7739円を差し引き、家賃6万円を加えると、賃貸住宅で暮らす場合の毎月の支出は33万9090円と試算できます。

では次章で、年金収入がいくらもらえるのか、受け取る年金の種類ごとに解説していきます。

厚生年金・国民年金の平均受給額はいくら?

厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金の平均受給額は15万289円(国民年金を含む)、国民年金は5万9310円です。

区分厚生年金国民年金
全体15万289円5万9310円
男性16万9967円6万1595円
女性11万1413円5万7582円
出典:出所:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」

厚生年金と国民年金を比較すると、厚生年金の方が9万円強多い状況です。国民年金のみを受給する場合、老後の生活費をすべて年金でカバーするのは難しいため、より高額な貯金を準備しておく必要があるといえます。

厚生年金は平均約15万円。男女間で約5万円の差がある

厚生年金は平均15万289円ですが、男女別に見ると男性が16万996円、女性が11万1413円で約5万円の差が生じています。

厚生年金は現役時代の年収や厚生年金への加入期間などによって受給額が異なり、年収が高いほど、また、加入期間が長いほど高額になるのが一般的です。

そのため、老後資金を準備するときは、「厚生年金なら月15万円もらえる」と一律に考えるのではなく、自分の受給見込み額を確認することが重要です。受給額の目安は、「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」などで確認できます。

国民年金は平均約6万円。満額受給には40年間の納付が必要

国民年金の平均受給額は5万9310円で、男性が6万1595円、女性が5万7582円です。男女間の差は約4000円で、厚生年金ほど大きな差は生じていません。

国民年金受給額は、国民年金保険料の納付済月数によって決まり、現役時代の年収に左右されない仕組みです。そのため、男女間での差が生じにくくなっています。

保険料を40年間(480か月)納付すれば、満額受給が可能です。しかし、免除期間がある場合は一定割合が年金額に反映されますが、納付猶予の期間は追納しなければ年金額には反映されません。

【世帯ケース別】老後の年金受給額の目安はいくら?

【世帯ケース別】老後の年金受給額の目安はいくら?

前章の厚生年金・国民年金の平均受給額を参考にした、世帯ケース別の年金受給額の目安は以下の通りです。

世帯ケース年金受給額(夫)年金受給額(妻)合計受給額
夫婦ともに厚生年金16万9967円11万1413円28万1380円
夫:厚生年金
妻:国民年金
16万9967円5万7582円22万7549円
夫婦ともに国民年金6万1595円5万7582円11万9177円

厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとに筆者作成

夫婦共働きの場合は夫妻ともに厚生年金を受給し、合計28万1380円が目安となります。

夫が会社員や公務員で妻が専業主婦の場合は、夫が厚生年金を、妻が国民年金を受給し、合計は22万7549円になる計算です。

夫婦ともに自営業の場合は、いずれも国民年金のみを受給することになり、合計で11万9177円です。

このように、世帯によって受給額はそれぞれ異なります。特に、共働き世帯と自営業世帯とでは、年金受給額に約16万円もの差が生じる可能性があります。

ただし、これはあくまで平均額を組み合わせた試算です。実際の年金額は、それぞれの加入期間や現役時代の年収、保険料の納付状況などによって異なります。

なお、夫婦ともに自営業の世帯でも、過去に会社員などとして厚生年金に加入していた期間があれば、厚生年金を受給する可能性があります。

老後を賃貸に住む夫婦に必要な貯金額をシミュレーション

前章までの支出と年金収入をもとに、65歳から85歳までの20年間、夫婦二人で賃貸で暮らす場合に必要な貯金額の目安を求めた結果は、以下の通りです。

世帯ケース必要な貯金額の目安(※)
夫婦ともに厚生年金約1385万円
夫:厚生年金、 妻:国民年金約2677万円
夫婦ともに国民年金約5278万円

(※)毎月の赤字が20年間継続したと仮定した場合の不足を補う金額

なお、「必要な貯金額の目安」は、毎月の生活費の不足分を補う金額として計算しています。

では、詳しいシミュレーション内容を確認していきましょう。

1. 夫婦ともに厚生年金の世帯

夫婦共働きの世帯では、ともに厚生年金を受給することになり、年金収入は夫婦合計で月額28万1380円になります。

一方、家賃が6万円かかると仮定した場合の支出は月33万9090円であるため、年金から差し引くと毎月5万7710円の赤字となる計算です。

  • 年金収入:28万1380円
  • 支出:33万9090円
  • 差額:▲5万7710円

単純計算では、65歳から85歳までの20年間で、約1385万円の貯金が必要になる可能性があります。
計算)5万7,710円×12か月×20年間=約1385万円

2.夫が厚生年金、妻が国民年金の世帯

夫が会社員や公務員、妻が専業主婦の世帯では、夫が厚生年金、妻が国民年金を受給することになり、夫婦で合計月22万7549円になる計算です。

毎月の支出額33万9090円をもとに収支を計算すると、11万1541円の不足が生じる可能性があります。

  • 年金収入:22万7549円
  • 支出:33万9090円
  • 差額:▲11万1541円

この不足が仮に20年間続くとすると、約2677万円の貯金が必要になります。
計算)11万1541円×12か月×20年間=約2676万9840円

3.夫婦ともに国民年金の世帯

夫婦ともに国民年金を受給する世帯では、合計で月額11万9177円です。

なお、自営業者でも過去に会社員や公務員だった期間があれば厚生年金を受け取れるケースもありますが、ここでは自営業のみの場合で試算しています。

毎月の支出額33万9090円をもとに収支を計算すると、毎月21万9913円の不足が生じる計算になります。

  • 年金収入:11万9177円
  • 支出:33万9090円
  • 差額:▲21万9913円

20年間継続して同程度不足する場合、約5278万の貯金の取り崩しが必要になる可能性があります。
計算)21万9913円×12か月×20年間=約5277万9120円

シミュレーションからわかる老後貯金のポイント

今回の試算からわかることは、老後を賃貸で暮らす場合は、年金収入だけでなく家賃を含めた住居費を考慮して老後資金を準備することが重要ということです。

【厚生年金の加入状況によって必要な老後資金は変わる】
厚生年金を受給できる人数が世帯内に多く存在するほど、年金収入が増え毎月の赤字を抑えやすくなります。

シミュレーション結果では、夫婦ともに厚生年金を受給するケースと、夫婦ともに国民年金のみを受給するケースとでは、必要額に約3900万円の差が生じています。

【自営業世帯は特に手厚い準備が必要】
夫婦ともに国民年金のみを受給する世帯は、年金収入が月12万円弱にとどまるため、毎月20万円以上の取り崩しが発生し、20年間で5000万円を超える貯金が必要になります。

国民年金には、付加年金や国民年金基金といった制度があるため、状況に応じて活用すると良いでしょう。

【家賃が老後の固定費として大きな負担となる】
老後も賃貸に住み続ける限り、継続して家賃が発生します。固定費の見直しが難しいと、節約しても限度があり、ゆとりある生活を送ることが難しいことも考えられます。

今回の試算では家賃を月6万円としていますが、家賃が1万円安くなると、20年間では単純計算で240万円安く抑えることが可能です。

老後は、無理なく支払える家賃の物件に住み替えを検討するのも一つの方法です。

なお、ここまでのシミュレーションは、平均年金額と平均的な支出・家賃を組み合わせた単純化した試算です。

実際には、年金受給額や家賃、物価、医療・介護費などが変化する可能性があり、必要な生活費や貯金額も変わります。

そのため、シミュレーション結果は「絶対に必要な貯金額」ではなく、一定の条件下において必要な貯金の目安として捉えることが大切です。

老後を賃貸で住む場合の貯金で考えるべきポイント3つ

老後を賃貸で住む場合の貯金で考えるべきポイント3つ

老後を賃貸で暮らす場合、「〇〇万円あれば大丈夫」というように一律の金額を設定するのではなく、年金額や家賃を含めた生活費、働く期間などの条件に合わせて計算することが重要です。

老後を賃貸で住む場合の貯金を考える際の、主な3つのポイントを解説します。

年金の受け取り開始は何歳からにするか

厚生年金や国民年金は、原則として65歳から受給開始しますが、繰上げ受給や繰下げ受給を選択することも可能です。

繰り上げ受給とは、60歳から65歳になるまでの間に繰り上げて受給できる制度です。ただし、繰上げ受給の請求時点に応じて年金が減額され、その減額率は一生変わりません。

繰下げ受給とは、66歳以降75歳までの間に繰下げて受給できる制度です。繰り下げた期間によって年金額が増額され、その増額率は一生変わりません。75歳まで繰り下げた場合の増額率は最大84%です。

老後を賃貸に住む場合、年金を65歳よりも早く受け取り始めれば家賃を含む生活費を補いやすくなります。一方で、66歳以降に繰下げれば将来の年金額を増やせます。

家庭の状況に合わせて、年金受給開始年齢を検討しましょう。

定年退職後・現役引退後も働くか

定年退職や現役引退後も働くことで、老後資金を増やすことが可能です。例えば、65歳以降も月5万円の収入を得られれば年間60万円になり、25年間なら単純計算で1500万円にも達します。

実際には税金や社会保険料の支出、勤務期間などを考慮する必要がありますが、老後も働くことは貯金を取り崩す期間を短くする効果が期待できます。

賃貸の場合は家賃が継続して生じるため、無理のない範囲で働き続ける選択肢も老後資金計画に入れておくのがおすすめです。

住み替えの可能性はあるか

老後の賃貸生活では、今の家に最後まで住み続けると決めつけないことも重要です。

例えば、現在は階段のある物件でも問題なく生活できていても、将来的に足腰が弱くなれば、エレベーター付きの住宅やバリアフリー住宅への住み替えが必要になるかもしれません。

病院、スーパー、公共交通機関などへのアクセスも重要になります。

そのため、老後資金には毎月の家賃だけでなく、引っ越し費用や家具・家電の買い替え費用といった「住み替え資金」も確保しておくと安心です。

老後に賃貸に住む場合の貯金についてよくある質問

老後を賃貸で暮らす場合、「いくら貯金があれば安心なのか」「老後資金2000万円を用意すれば十分なのか」と気になる方も多いでしょう。

ここでは、老後の賃貸生活に関するよくある質問を解説します。

老後は賃貸でいくら貯金しておけばいいですか?

老後を賃貸で暮らす場合に必要な貯金額は、一律に「○○万円」と決められるものではありません。年金収入と毎月の生活費に加えて、家賃や医療・介護費、住み替え費用などを考慮して計算することが大切です。

今後、物価や家賃、年金額などが変化する可能性があります。また、老後も働く場合は必要な貯金額を抑えられる可能性があります。

そのため、「老後は〇〇万円必要」と最初から決めるのではなく、年金見込額と家賃を含めた生活費を確認し、毎月いくら不足するのかを計算することが重要です。

老後は本当に2000万円必要ですか?

「老後2000万円問題」が話題になりましたが、すべての人に2000万円の貯金が必要というわけではありません。

老後2000万円問題のきっかけとなったのは、金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」の報告書です。2017年の総務省「家計調査」をもとに、高齢夫婦無職世帯について、収入と支出の差額が毎月約5万円となる場合、20~30年で約1300万円~2,000万円になるという試算が示されました。

ただし、この試算は特定の世帯の収入・支出を前提にしたモデルケースであり、すべての高齢者に2000万円が必要だと示したものではないことに注意しましょう。

老後を賃貸で暮らすなら「貯金額」だけでなく毎月の収支を確認しよう

老後を賃貸で暮らすなら「貯金額」だけでなく毎月の収支を確認しよう

老後を賃貸で暮らす場合に必要な貯金額は、年金額や家賃を含めた生活費などによって異なります。

実際の老後資金を計算する際は、世帯の年金見込額や毎月の生活費、年金受給開始年齢、定年退職後も働くかなども考慮することが重要です。

特に賃貸の場合は「家賃×老後の年数」といった大きな金額が生じるため、長期的な資金計画を立てる必要があります。

【参考資料】

総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」

総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」

厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」

日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」

日本年金機構「年金の繰上げ受給」

日本年金機構「年金の繰下げ受給」

この記事を書いた人

FP発信|老後のお金

元金融機関勤務のFPです。
人生100年時代といわれるようになって久しい現在、ゆとりある老後資金形成のために役立つ情報を発信中です。

【保有資格】
・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
・AFP
・一種外務員資格
・年金アドバイザー

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