「60歳から新NISAを始めるのは遅いの?」「老後のお金を投資に回して大丈夫?」などと不安に感じる方もいるでしょう。

結論からいえば、60歳以上だからといって新NISAをやってはいけないわけではありません。新NISAは18歳以上の方が利用でき、非課税で資産運用できるメリットがあります。

一方、60歳代は退職や年金受給などによって収入・支出が変化しやすい年代です。そのため、現役世代と同じように長期間運用することを優先するのではなく、「いつ」「いくら」使う予定のお金なのかを考えて運用することが重要です。

この記事では、60歳代が新NISAを利用するメリットや注意点、おすすめの活用法、出口戦略について解説します。

新NISAは60歳からでも遅くない

新NISAは60歳からでも遅くない

新NISAは、「60歳だから」といって、年齢だけを理由に避ける必要はありません。実際に新NISAは、日本国内に住む18歳以上の方であれば口座開設でき、年齢の上限は設けられていません。

新NISAでは、投資によって得られた売却益や配当・分配金が非課税になるというメリットがあり(※)、資産運用に取り組みたい60歳以上の方でも、そのメリットを享受することが可能です。

60歳代からでもNISAを始める意味を具体的に解説します。

(※)上場株式の配当金を非課税にするには、受取方法を「株式数比例配分方式」にする必要があります。

60歳代でも長い運用期間を確保できる

60歳代から新NISAを始めても、必ずしも「長期投資はできない」と考える必要はありません。

厚生労働省の2025年簡易生命表によると、65歳における平均余命は男性19.68年、女性24.52年です。60歳では男性23.86年、女性29.07年となっています。

もちろん、平均余命は投資を続けられる期間を示すものではありません。また、老後の生活費としていつ・いくら使うのかによって、適切な運用期間も変わります。

そのため、60歳代では「何年運用できるか」だけでなく、「いつ使う予定のお金なのか」を考えたうえで、投資期間を設定することが重要です。

運用益が非課税になるメリットがある

新NISAの大きなメリットの一つは、投資によって得られた利益が非課税になることです。

通常、株式や投資信託などの運用で得られた利益には税金がかかります。一方、NISA口座で取得した対象商品については、売却益や配当・分配金が非課税となります。

例えば、100万円を投資した結果、資産が120万円になった場合で考えてみましょう。20万円の利益が出ていますが、通常の課税口座ではこの利益に税金がかかります。しかし新NISAであれば、一定の要件を満たすと非課税になります。

60歳代からでも新NISAに取り組み、運用益が非課税になるメリットを上手に利用するのも資産形成の一つの方法です。

老後資金をすべて現金にする必要はない

老後資金は現金で準備しておく方が良いケースもありますが、資産のすべてを現金にする必要はないといえます。

60歳からは資産の取り崩し期に入ることや、医療費や介護費など短期間にまとまった支出があることなどから、投資よりも預貯金を優先したほうが良いと考える方もいるでしょう。

しかし、老後の生活が20年、30年と続く可能性を考えると、すべての資産を現金だけで保有すると、長生きリスクに対応できないことが考えられます。

60歳代では、近い将来使うお金と当面使わないお金を検討し、現金で保有する分と新NISAなどの運用に充てる分に分けて管理すると良いでしょう。

新NISAで60歳代が注意すべきこと5つ

60歳代から新NISAを始める際には、非課税枠が適用されるといったメリットがある一方、現役世代とは異なる注意点があります。

特に重要な5つの注意点について解説します。

1.老後の生活費まで投資に回さない

最も重要なのは、生活に必要なお金を投資に回し過ぎないことです。株式や投資信託は、預貯金とは異なり元本が保証されないためです。金融庁も、投資には元本割れのおそれがあると説明しています。

例えば、毎月の年金だけでは生活費が足りず、預貯金を取り崩している方が、生活費に必要な資金まで新NISAで運用するのは適切とはいえません。

60歳代では、まず生活費や医療・介護費、住宅修繕費など、近い将来に使う可能性が高いお金を預貯金などで確保することが大切です。そのうえで、当面使う予定のない余裕資金を新NISAで運用するのが基本となります。

2.短期間で大きな利益を狙わない

「老後資金を増やしたい」という気持ちから、ハイリターンの商品に集中的に投資するのは控えましょう。一般的に、高い収益が期待できる商品ほど価格変動も大きくなる傾向があり、値動きによっては大きな損失を被る可能性があるためです。

金融庁は、安定的な資産形成のために長期・積立・分散投資を推奨しています。分散投資では、国内外の株式・債券など、値動きの異なる資産を組み合わせることで、価格変動の影響を抑えることを目指します。

60歳代から新NISAを始める場合、値動きの大きい商品に集中投資するのは避け、許容できるリスクを意識して商品を選ぶことが重要です。

3.NISAで購入する金融商品には元本割れリスクがある

新NISAでは、運用によって利益が期待できる一方、商品の価格が下落すれば元本割れする可能性があることに注意が必要です。

例えば、新NISAで100万円で購入した投資信託が90万円になれば、10万円の含み損が発生します。

さらに、NISA口座で生じた損失は、特定口座や一般口座で生じた利益と損益通算できません(※1)。また、損失を翌年以降に繰り越して、将来の利益から差し引く「繰越控除」も利用できません(※2)。

新NISAは「非課税だから安全」と考えるのではなく、「投資元本が減る可能性があることを理解したうえで利用する制度」と捉えることが重要です。

(※1)損益通算:NISAの損失と、課税口座の利益を相殺すること
(※2)繰越控除:その年に相殺しきれなかった損失を、翌年以降3年間にわたって繰り越すこと

4.一度に大きな金額を投資しすぎない

退職金などまとまったお金を受け取った際に、その資金を一度に新NISAへ投入する場合は十分に検討する必要があります。一括投資を行った直後に市場全体が下落した場合、一度に大きな損失を抱え込むことになるためです。

新NISAでは、つみたて投資枠が年間120万円、成長投資枠が年間240万円で、合計年間360万円まで投資できます。非課税保有限度額は1800万円で、成長投資枠はそのうち1200万円が上限です。

しかし、これはあくまでも限度額であり、「枠を使い切らなければ損」と考える必要はありません。

60歳代で退職金などを受け取った場合も、必要な生活資金を確保したうえで、投資する金額やタイミングを慎重に決めることが大切です。

5.NISAの「出口」を考えずに始めない

60歳代のNISAでは、「何を買うか」だけでなく「いつ、どのように使うか」を最初から考えておくことが重要です。つまり、出口戦略を立てたうえで計画的に運用するということです。

例えば、以下のように自分のライフプランに合わせて出口を設定すると良いでしょう。

  • 65~70歳は年金で生活し、新NISAはなるべく運用する
  • 70歳以降に毎月一定額を取り崩す
  • 大きな医療費や住宅修繕費が必要になったら一部を売却する

新NISAで保有している商品は、必要なときに売却できます。さらに、売却した商品の取得価額(買ったときの金額)分だけ、翌年以降に非課税保有限度額を再利用できます。

60歳代におすすめの新NISA活用法

60歳代におすすめの新NISA活用法

60歳代の新NISAは、「できるだけ大きく増やす」よりも、「老後資金を長く維持するために活用する」という考え方を重視した運用が適しています。

60歳代からの運用で取り入れたい、具体的な活用法を解説していきます。

余裕資金を少額から積み立てる

投資初心者なら、最初からまとまった金額を投資するのではなく、毎月一定額を積み立てる方法が推奨されます。

積立投資は、あらかじめ決めた金額を定期的に投資するため、価格が高いときには少なく、安いときには多く購入することになります。

例えば、毎月1万円ずつ投資信託を購入する場合で考えてみましょう。価格が1万円なら1口、5000円なら2口、2万円なら0.5口を購入できることになります。

このように、積立投資では価格が安いときに多く、高いときに少なく購入することになるため、購入価格を平準化しやすい点が特徴的です。

金融庁も、積立投資によって高値のときだけ購入してしまうリスクを抑える効果が期待できると説明しています。ただし、積立投資でも投資商品の価格が下落すれば元本割れする可能性はあります。

家計に無理のない金額から始めるのがおすすめです。

低コストで分散された投資信託を活用する

新NISAでは、つみたて投資枠と成長投資枠の併用が可能です。60歳代の投資初心者の場合は、対象商品が一定の基準に絞られているつみたて投資枠から検討するのも一つの方法です。

商品を選ぶ際には、過去のリターンだけを見るのではなく、投資対象、値動きの大きさ、信託報酬などのコストももれなく確認しましょう。

老後資金は「年金+新NISA」で考える

60歳代では、年金などの公的収入だけで老後生活を支えるのではなく、新NISAといった投資商品を組み合わせて考えるのも一つの方法です。

例えば、年金で基本的な生活費をまかない、新NISAは旅行や趣味、住宅修繕、医療・介護などのための予備資金として活用する方法があります。

また、年金は65歳から必ず受給しなければならないわけではありません。老齢基礎年金・老齢厚生年金は、66歳以後75歳まで繰り下げることが可能で、繰下げた場合は1か月あたり0.7%ずつ増額されます。75歳まで繰り下げた場合の増額率は最大84%です。

ただし、年金の繰下げを検討する際は、手元資金がどの程度あるか、何歳まで働くか、毎月の生活費はいくらかなどを踏まえて、新NISAなどと合わせて判断することが大切です。

新NISAは出口戦略が重要

60歳代における新NISAは、現役時代のような「資産を拡大するフェーズ」から、積立・運用を続けつつ適切にお金を使っていく「運用しながら取り崩す出口戦略フェーズ」へと移行します。

新NISAを活用する際の、出口戦略の重要さを理解しておきましょう。

資産寿命を延ばすことが大事

資産寿命を延ばすためには、必要な資金を確保しつつ、当面使う予定のない資金については運用を継続することがポイントです。

運用を続けながら必要な分だけ取り崩すことで、資産を一括で現金化する場合と比べて、運用を継続できる可能性があります。

取り崩し方法は「定率」と「定額」がある

資産の取り崩し方法には、主に「定率取り崩し」と「定額取り崩し」があります。それぞれ特徴が異なるため、年金額や生活費、保有資産、投資期間などを踏まえて選ぶことが大切です。

定率取り崩しは、毎月・毎年「資産残高の○%」と決めて取り崩す方法です。資産残高に応じて取り崩し額が変わるため、相場が下落した場合には取り崩す金額も小さくなります。一方、資産残高が減ると受け取れる金額も減るため、毎月の生活費を一定にしたい場合には注意が必要です。

定額取り崩しは、「毎月5万円」など、あらかじめ決めた金額を取り崩す方法です。毎月の収支計画を立てやすい一方、相場が下落しているときも同じ金額を取り崩すため、資産残高の減少スピードが速くなる可能性があります。

どちらが適しているかは、年金収入や生活費、預貯金などを含めて判断する必要があります。

資産の取り崩し額の決め方

資産の取り崩し額を決める際には、以下の5つの点を考慮するのがおすすめです。

  • 毎月の生活費はいくら必要か
  • 年金でいくらまかなえるか
  • 自由に引き出せる預貯金はいくらあるか
  • 医療・介護・住宅などの臨時支出はいつからいくら備えるか

家計管理とライフプランニングを行ったうえで、資産形成を考えることが大切です。

新NISAに取り組む60歳代によくある質問

60歳代から新NISAに取り組むにあたり、疑問や不安に思うこともあるでしょう。

ここでは、新NISAに取り組む60歳代によくある質問について回答していきます。

60歳から新NISAを始めるのは遅いですか?

遅いとはいえません。

新NISAには年齢の上限がなく、18歳以上の方が利用できます。また、65歳時点でも男性は平均19.47年、女性は24.38年の平均余命があることから、新NISAを活用して資産寿命を延ばす工夫が必要になるでしょう。

ただし、60歳代は老後資金を使う時期が近いため、若い世代以上に「いつどのタイミングで使うお金なのか」を意識する必要があります。

60歳代はつみたて投資枠と成長投資枠のどちらがいいですか?

どちらが適しているかは、投資経験や資産状況などによって異なります。

つみたて投資枠は、長期・積立・分散投資に適した一定の投資信託が対象です。一方、成長投資枠では上場株式や投資信託など、より幅広い商品に投資できます。両方を併用することも可能です。

投資初心者であれば、まずはつみたて投資枠を利用して、無理のない金額から始める方法が推奨されます。

退職金をそのまま新NISAに入れてもいいですか?

退職金をすぐに全額投資するのは慎重に考える必要があります。

退職後は給与収入が減る一方、生活費や医療費、住宅修繕費などの支出が発生する可能性があります。

まず数年分の生活費や近い将来必要になる資金を確保し、それでも当面使う予定のない余裕資金がある場合に、その一部を新NISAで運用するという考え方が基本です。

新NISAはいつでも売却できますか?

はい。新NISAで保有する商品は必要なときに売却(現金化)売却できます。

売却した商品の取得価額分の非課税保有限度額は、翌年以降に再利用できます。老後資金として取り崩しつつ、余剰資金ができた際に再投資するなどの柔軟な運用が可能です。

60歳代なら投資より預貯金のほうが安心ではないですか?

投資と預貯金のどちらか一方にすべての資産を集中するのではなく、目的に応じて使い分けることが大切です。

預貯金には、必要なときに使いやすく元本割れの可能性が低いというメリットがあり、近い将来使うお金の管理に適しています。一方、新NISAを利用した投資には、資産を増やせる可能性がある反面、元本割れのリスクがあります。当面使う予定のないお金は新NISAで運用するのも一つの方法です。

安全性・収益性・流動性の高さをすべて備えた金融商品はないため、目的に応じて使い分けることが重要です。

60歳以上も新NISAで資産を守りながら育てていける

60歳以上も新NISAで資産を守りながら育てていける

「60歳以上は新NISAをやってはいけない」という考え方は適切ではありません。新NISAは18歳以上であれば利用でき、年齢の上限はありません。運用益が非課税になるため、60歳代からでも老後資金の準備や資産管理に活用できます。

一方で、60歳代は老後生活が目前に迫っている時期でもあります。

現役世代と同じように「できるだけ長く運用する」ことを重視するのではなく、長くなる老後に備えて、資産を守りながら育て、必要なときに取り崩すための選択肢の一つと考えるのが良いでしょう。

【参照】

日本証券業協会「NISA口座における上場株式の配当金等受取方式に関する注意事項」
厚生労働省「令和7(2025)年簡易生命表の概況」
金融庁「NISAを利用する皆さまへ」
国税庁「No.1535 NISA制度」
金融庁「早わかりNISA」

この記事を書いた人

FP発信|老後のお金

元金融機関勤務のFPです。
人生100年時代といわれるようになって久しい現在、ゆとりある老後資金形成のために役立つ情報を発信中です。

【保有資格】
・1級ファイナンシャル・プランニング技能士
・AFP
・一種外務員資格
・年金アドバイザー

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